2005年3月31日 ジェンダー平等

北京+10 女性の声と運動共同の力で 「男女平等・開発・平和」の目標の実現へ

新婦人しんぶん 2005年3月31日

新婦人を代表して参加した平野恵美子国際部長のレポート

 

★北京行動綱領と成果文書を一致して再確認 孤立するアメリカ

国連
「(北京会議から)10年たった今、女性は自らの権利を自覚しているだけでなく、権利を行使する力を高めています」「男女平等の推進は女性だけでなくわれわれすべての責任です」
「北京+10」として開かれた第49回国連女性の地位委員会(CSW、2月28日~3月11日、ニューヨーク国連本部)の開会にあたり、コフィー・アナン国連事務総長は女性のエンパワーメントを通じてこそ、すべての人にとって平和でよりよい世界が実現できることを強調しました。
今年は第二次世界大戦の終了と国連創設、男女平等をはじめて国際文書でうたった国連憲章の採択から60年、国際女性年と第1回世界女性会議から30年、第4回世界女性会議(北京)から10年、さらに被爆60年という重要な年です。国連は2000年のミレニアム(新世紀)総会で、21世紀にとりくむべき緊急の課題として8項目のミレニアム開発目標(※)を決めました。今年9月の国連総会で5年間のとりくみを評価する予定で、CSWでの議論や成果も反映されることになっており、そのことも踏まえての会合でもありました。
会議は各国政府がおもに成果を発表する代表演説、より具体的な議論をするための円卓会議とパネルで構成、NGOはそのすべてを傍聴でき、発言の機会も与えられました。また、北京行動綱領や2000年成果文書のような詳細な合意文書はつくらないことが確認されていました。言葉の意味や定義、使い方をめぐる議論に膨大な時間と労力が費やされるのを避け、すでに合意されていることについて前進や成功を評価し、実施が困難な分野について原因や対策、新しい問題への対処についての議論に集中するためです。2000年の「北京+5」の会合は、女性の「性の自己決定権」を否定するアメリカや宗教右派団体などバックラッシュ勢力が、合意文書作成の場を利用して自分たちが反対するリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康・権利)などの立場を文書から削ろうとする動きを強め、深刻な事態になりました。同じことを繰り返させないために、あらたな文書を作成しないというのはNGOの要求でもありました。
詳細な合意文書は作成しないが、「北京+10」にあたり各国政府が北京行動綱領と成果文書を再確認し、実行の推進を約束するという趣旨の短い「政治宣言」を採択することが決まり、会期前半はこれをめぐる攻防が焦点になりました。議長団が提出した原案にたいし、アメリカが2点の修正案を出したのです。ひとつは〝各国政府代表は北京宣言と行動綱領、2000年の成果文書を再確認する〟という部分に、アメリカが「それらがいかなる新たな国際人権を創設するものではないことと、中絶の権利を含まないことを再確認する」を挿入するということ。もうひとつは9月の〝ハイレベル全体会合の準備の過程と成果にジェンダーの視点を取り入れる〟という部分の〝成果〟を削除するというもの。アメリカは国際合意の具体的な実行はそれぞれの国の判断にまかされる、中絶を認めるかどうかは国の主権の問題であると主張、さらに9月の国連総会でリプロダクティブ・ヘルス/ライツなどについてさらに進んだ合意がされることをけん制したのです。そして、キリスト教の右派勢力などの〝NGO〟を動員し、「世界50万人がアメリカ政府の修正案を支持」などと書いたビラをまいたり、イスラム諸国など各国政府への圧力をかけていきました。
私たちNGOは、連日地域ごとや全体の会合で情報を交流、予定通り国際女性デーの祝賀行事がおこなわれる4日までに原案のまま採択するよう政府に強くはたらきかけることで一致して行動。アメリカが強硬な姿勢を崩さないなか、EU諸国を中心に政府の代表演説で次つぎ「再確認」が表明され、3日の非公式会議でも同調する国がなく、アメリカは修正案を撤回、4日の採択となりました。女性分野でも、国際合意を軽視するアメリカ・ブッシュ政権の孤立がはっきりする形になりました。

★平和のワークショップで核廃絶と憲法9条の意義を訴えて

CSWの期間中、NGOはワークッショプを開いたり、地域やテーマごとにコーカスとよばれる活動グループをつくって声明を発表したり政府に働きかけをしたりします。今回は「北京+10」ということで参加者も多く、200近いワークショップが国連ビルの内外で開かれました。
そのひとつに、戦後60年にあたり日本軍「慰安婦」問題をなんとしても解決させようという国際キャンペーンがありました。これはNHKの番組改変で問題になっている2000年の女性国際戦犯法廷の主催団体のひとつである韓国挺身隊問題協議会のよびかけに、女性に対する暴力をなくすとりくみを支援しているアメリカのVデーという団体が応えたものです。同じく女性国際戦犯法廷を主催したVAWW-NET JAPAN(バウネット・ジャパン)などとともに、人権委員会やILOなどの国連組織に対し日本政府に勧告に従うよう強くもとめること、日本政府に対して被害女性への謝罪と賠償をもとめる国際署名を始めるというものです。
もうひとつは、核兵器の廃絶にも積極的な「平和をめざすカナダ女性の声」という団体が、婦人国際平和自由連盟(WILPF)と「ハーグ平和アピール」との共催で戦争は合法か違法かを問う模擬裁判のワークショップ。交流の時間に、私は平和憲法と第9条を紹介し、ハーグ市民会議が呼びかけたように各国で9条を持とうと発言、大きな拍手で歓迎されました。
このワークショップを通じて「カナダ女性の声」が広島・長崎市長のよびかけに応えて、自治体首長に賛同を要請していること、トロントの市長はすでに賛同し、5月のNPT(核不拡散条約)再検討会議への行動にも参加する意向であることがわかりました。共同代表のジャニス・オルトンさんとの話のなかで、「今回はワークショップはたくさんあるが平和のコーカスがなく残念」と言うと、「同感。いっしょに立ち上げましょう」となり、さっそく「平和コーカスがスタート、希望者はどうぞ」というお知らせを掲示。翌日10数人が集まり意見交換をして、戦争をいかになくすかを訴える声明をつくることになりました。
3月9日の全体会議の場で平和コーカスとして声明を発表する場が与えられました。今後につながる活動になったと思います。

★NGO世界レポートに新婦人の声が

新婦人として、今回のCSWでのもっとも大きな成果のひとつといえるのが、NGO世界レポートに新婦人の主張が引用されたことです。
日本政府の国連への報告書に対し、私たちは女性の現状や実態を反映していない問題を指摘し、草の根の立場からのレポートを発表しました(『月刊 女性&運動』04年8月号に掲載)。ニューヨークのNGO・CSW委員会からの世界各地のNGOの声を反映したレポートを作成したいとの要請に応え、英訳を送付しておいたのですが、かなりの長文なので実際に読んでもらえるかどうか半信半疑でした。しかし、CSWの前日に配布されたNGO世界レポートを開いてみると、「新婦人は…と指摘している」などの表現で私たちのレポートから5カ所、内容的にも重要な部分が引用されていたのです。
バックラッシュと合わせて、「男女平等」の名のもとに税制や社会保障制度が改悪されている問題、男女共同参画基本法や自治体の条例制定はすすんだが、予算や人員配置が不十分な問題、女性への暴力が増加している現実と閣僚の「集団レイプをする男は元気があっていい」との問題発言、政府の食の安全対策が不十分な問題。そして平和の分野では2段落をさいて、核廃絶と憲法に関する私たちの主張が掲載されています。被爆60年にもあたる「北京+10」への報告書に政府が核廃絶の課題を一言もふれていないこと、被爆国でありながらアメリカのミサイル防衛計画に参加しようとしている問題、さらに小泉内閣が集団的自衛権を行使できるようにするために憲法を変えようとしていること、憲法9条の国際的な意義、日本に130以上もの米軍基地がある現実と深刻な被害、さらに政府が日本軍「慰安婦」問題を解決していない問題です。

★日本政府の課題 NGOとしての課題

日本政府の演説は、「再確認」のことばがなかったうえに、してきたことの羅列で印象に残る内容ではありませんでした。政府の姿勢を変えさせていくためにも、私たちNGOが日常的な働きかけを強め建設的な提案をおこなう力をつけていくことがもとめられています。国際的な場での交流で学んだことを生かし、共同を広げながら、何よりも日本のなかで本当の意味での男女平等や女性の人権・地位向上を実現していくために運動を強めていくことが課題です。

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