2012年6月8日 ジェンダー平等

【私たちの見解と要求】仕事と子育ての両立、安心の高齢期、いのち守る社会いまこそ~少子・高齢化を口実にした「社会保障と税の一体改革」は許しません~

新日本婦人の会

民主党の野田政権は、女性に深くかかわる少子・高齢化問題を理由にあげ、国民に 20 兆円もの負担をしいる 消費税大増税とあらゆる社会保障切り捨ての「一体改革」関連法案を押し通そうとしています。国会会期内の消 費税増税法案の採決をねらい、民主・自民・公明3党で「修正協議」という名の「増税談合」をすすめていま す。国民世論と議会制民主主義をふみにじるこうした行為は決して許されません。いま多くの女性が望んでい ることは、東日本大震災・福島原発災害からの本格的復興、原発ゼロへの転換、予想される大地震への抜本的備 えであり、あたりまえに仕事と子育てが両立でき、だれもが安心して高齢期をすごせる、いのち守る社会です。
以下、私たちの見解と要求を発表します。

1、貧困と格差さらにひろげる野田政権

(1)少子・高齢化を口実に

<“肩車社会”とウソの宣伝>

厚生労働省が発表した 2011 年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子ども数)は前年同水準の 1.39でした。「日本の将来推計人口」(国立社会保障・人口研究所、2012 年 1 月推計)によると、前提となる合計特殊 出生率は「2024 年に最低値 1.33 を経て長期的には 1.35 に収束」し、「今後わが国では人口減が進み、2060 年 の推計人口は 8674 万人」、「平均寿命男性 84.19 年、女性 90.93 年」となり、「高齢化が進行し、2060 年の 65 歳以上人口割合は 39.9%」と報告しています。
野田政権は、少子化に歯止めをかけられない自らの責任を棚上げし、「高齢化に伴う社会保障費用の急速な増 大」などの理由をあげて、“「将来は1人の現役世代が1人のお年寄りを支える『肩車』型社会」になるから「社 会保障と税の一体改革」が必要”とメディアを使って大宣伝しています。しかし、それはごまかしです。日本の 総人口を労働力人口で割ると、1965 年が 2.05、2012 年が 1.96、2030 年が 1.88 とほとんど変わりません。

<いまでさえ大変、「一体改革」でさらに>

私たちのくらしはいま、非正規雇用の増大や賃下げによる収入減、あいつぐ増税、社会保障の負担増と給付 減という三重苦、四重苦の中にあります。今年すでに、あるいは来年の実施が決まっているものだけでも、子 ども手当の削減・廃止と児童手当の所得制限、年少扶養控除廃止による住民税引き上げ、健康保険料(協会け んぽ)や後期高齢者医療保険料、介護保険料の引き上げ、厚生年金保険料の毎年引き上げ、年金支給額の連続 引き下げ、復興増税など、目白押しです。
「社会保障と税の一体改革」の柱である消費税の「2014 年 4 月に税率 8%、15 年 10 月に 10%」への大増税 が強行されるなら、低所得の子育て世帯や高齢世帯をはじめ国民生活や中小零細業者の営業はこわされ、大震 災の復興を遅らせ、景気のいっそうの悪化で日本の財政問題をいよいよひどくします。消費税法案といっしょ に審議されている子ども・子育て新システム関連法案は、保育への公的責任を投げ捨て、「保育も金次第」とな り、待機児問題をいっそう深刻化させます。さらに、厚生・共済統合等年金関連法案も年金改悪につながりま す。特別委員会での一括審議から外されたものの、国民年金削減法案、給付抑制と税・保険料徴収強化のための 「共通番号制度(マイナンバー)」関連法案も、厚労・内閣の各委員会で審議されようとしています。
「一体改革」はこれで終わりません。生活保護の受給制限や引き下げ、70~74 歳医療費窓口負担 1 割から 2 割への引き上げ、68~70 歳への年金支給開始年齢先延ばしなど、国民いじめの法案が次つぎ準備されています。

(2)新自由主義的「構造改革」を推進

<社会保障は人権>

社会保障は、少数者に富が集中する一方、多数の貧困を生む資本主義のもとで救貧法に始まりました。さら
にたたかいのなかで、所得全体を再分配して国民生活を保障するという人権としての社会保障が確立されてき ました。
日本国憲法は、第 25 条 1 項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と基本 的人権としての生存権の保障をうたい、これを受けて 2 項で「国は、すべての生活面について、社会福祉、社 会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と国の社会保障的義務を定めています。
この条項を現実のものにするために、1950 年代から 70 年代半ばへと、労働者を先頭にした国民的なたたかい が展開されました。財界も歴代政府も譲歩せざるをえず、不十分さはありつつも、失業給付や生活保護、「国民 皆保険」とよばれる医療保険制度、老人医療費無料制度、年金制度などがつくられてきました。

<財界とアメリカが発信源>

ところが、「自立」「自助」の名のもとに、日本で確立されてきた医療・介護、年金、保育などの公的制度をこ わし、不安をあおりながら、一方で民間企業のもうけの市場をつくりだす「構造改革」路線が、この 30 年いっかんしてすすめられてきたのです。
1980 年代、軍備拡大とともに強行されたのが、臨調「行革」です。健保本人窓口1 割負担の導入や老人医療 費有料化、2 次にわたる年金大改悪など社会保障の切り捨て、「高齢者福祉のため」を理由にした消費税の導入 がおこなわれました。さらにバブル崩壊後の 90 年代、国際競争力強化を口実に「新時代の『日本型経営』」(日 経連、95 年)で非正規雇用への大転換等の新戦略が発表され、消費税率 5%への増税、労働法制の改悪などが あいつぎました。2001 年に誕生した小泉自公政権は「自己責任」「受益者負担」「規制緩和」のキャンペーンで 弱肉強食の新自由主義政策を推進しました。非正規が若年層の 5 割を超える雇用破壊、医療・年金・介護など 社会保障予算の大幅削減、保育への民間参入、大企業・資産家優遇税制などを一気におこない、貧困と格差を 急速に拡大させました。国民から「ノー」をつきつけられたこの路線をさらにすすめるのが、野田政権の「社 会保障と税の一体改革」です。権利としての社会保障を、救貧対策に根本的につくり変えるものです。
これらは、日本の財界とアメリカの要求です。さらに経団連はこの 5 月、「一体改革」の早期成立を要求する とともに、2025 年に消費税率 19%、法人税率 38.01%から 25%への減税などを盛り込んだ「成長戦略の実行と 財政再建の断行を求める」提言を発表しています。
先進5カ国(日米英仏独)で 95 年から 08 年の間に雇用者所得が減っているのは日本だけ、国内総生産(G DP)の伸びも日本が最低です。他方、大企業は 260 兆円という使い途に困るほどの内部留保をためこんでい ます。日本で、税と社会保障による所得の再分配機能が失われてきています。

<ジェンダー平等への前進も「構造改革」路線克服してこそ>

日本の女性たちは長年、パートなど安上がりの労働力としての役割を担わされてきました。1997 年には労働 基準法の「女性の時間外・休日・深夜労働の制限」が撤廃され、深夜パートをはじめ劣悪な労働が拡大、99 年に は男女共同参画社会基本法制定の一方で、労働者派遣法の改悪で派遣の原則自由化が強行されました。女性の 正規雇用は 80 年代に 7 割、90 年代 6 割と多数を占めていたのが、2005 年には逆転し、いまや 54.6%が非正規、 年収が 200 万円以下のワーキングプア(働く貧困層)の 74.4%が女性です。また、「専業主婦を優遇し不公平」 などを理由に、男女共同参画推進の名による「配偶者特別控除」の廃止(04 年)は結局、勤労世帯の収入減を 加速させただけでした。
日本の夫婦が子どもを持てない理由にあげる「子育て・教育にお金がかかりすぎる」現状は改善するどころか、 悪化の一途をたどっています。結婚も出産もためらうほどの低賃金や無権利な労働条件、少ない子ども(児童) 手当、大量の保育所待機児、世界一高い学費など、仕事と子育ての両立環境はあまりにも劣悪です。フランス が 93 年に 1.66 まで下がった出生率を、有給休暇や育児休暇、子育て手当、保育所建設など手厚い家族施策で、 09 年には 1.99 まで急回復させたのとは対照的です。さらに、男性の約半分という低賃金が、そのまま女性の高 齢期の生活困難につながっています。
世界 98 位のジェンダー格差にみられる日本の国際的遅れを取り戻すには、新自由主義的「構造改革」路線と 決別することが欠かせません。

(3)国民のための税金の集め方、使い方

<財源はある>

消費税を増税しなくても、社会保障を削らなくても、聖域をつくらず税金の無駄づかいをやめ、税金の集め 方を変えれば、財源はあります。原発推進費、八ツ場ダムや大都市圏環状道路などの大型開発、米軍への思い やり予算や再編経費、1 機 150 億円に膨らんだF35 次期戦闘機等の主要装備、政党助成金などをやめ、減税でカネ余り状態の富裕層・大企業に応分の負担を求めることで多額の財源が生まれます。さらに、「応能負担」「累 進課税」の原則で、日本の税制を抜本的に見直すことです。

<世界の流れとともに>

世界各国では、「1%の富裕層ではなく、99%のための民主主義を」との声が高まり、ギリシャの総選挙でも、 フランス大統領選挙でも、国民犠牲の「緊縮政策」からの転換を訴えた勢力や候補が勝利しました。主要 8 ヵ 国やEUの首脳会議でも、緊縮一辺倒ではなく、経済成長や雇用を重視する新しい方針が打ち出されています。
日本でも、消費税増税に 6 割の国民が賛同せず、食や医療、地域をこわすTPP(環太平洋連携協定)にも JAや医師会など広範な人びとが反対し、原発再稼働やめよのかつてない運動が広がり、「新基地建設ノー」は 沖縄県民の総意となっています。いまこそ、財界・アメリカいいなりをやめ、国民と被災者の生活優先、いの ちが守られる社会、男女とも安心して働き、生み、育て、老いることができるジェンダー平等の社会へと根本 的に転換すべきときです。

2、私たちの要求

(1)税金の無駄づかいをやめ、税金は応能負担の原則で

  • 原発推進や大型開発、軍事費、政党助成金などの無駄づかいをただちにやめること
  • 消費税増税関連法案、マイナンバー(共通番号)法案を廃案にすること。証券優遇税制の廃止、株配当・譲渡益をはじめ富裕層への課税強化、新たな法人税減税の中止など税制を見直すこと
  • 生活費非課税の原則から非課税限度額と基礎控除額を大幅に引き上げること、それなしに配偶者控除や扶養控除を廃止しないこと。公的年金等控除・老齢年金控除を 2004 年以前に戻すこと
  • 「応能負担」「累進課税」の原則で税制を抜本的に見直すこと

(2)正規雇用を基本とする雇用保障、男女差別是正、セーフティネットの拡充を

  • 正規雇用を基本にすえること。登録型や製造業派遣の禁止、違法企業の直接雇用の義務づけなど労働者派遣法を抜本改正すること。雇用契約は原則として期間の定めがなく、継続的に働く労働者を有期雇用とし ない原則を確立すること。「育児休業切り」「産休切り」を根絶すること。解雇を規制し、雇用を守る法律 を制定すること。「整理解雇4要件」を厳格に守らせること
  • 全国一律最低賃金制度を確立し、時間給 1000 円以上を実現すること。賃下げなしの労働時間短縮による雇 用の拡大、医療・介護・保育・教育・自然エネルギー分野での新規雇用の創設、高齢者・障害者の仕事の 確保、待遇改善をすすめること。国家公務員の新規採用削減方針や公務員削減をやめること
  • 賃金格差是正や均等待遇、罰則強化など、男女雇用機会均等法やパート労働法を実効あるものに抜本改正 すること。所得税法第 56 条を撤廃し、家族従業者の働き分を正当に認めること
  • 国連女性差別撤廃委員会の勧告に従い、暫定的特別措置などで職場での差別を是正すること。第3次男女 共同参画基本計画の成果目標とスケジュールを着実に達成すること
  • 官公需の中小企業への適正な条件での発注をふやすこと。下請けいじめをなくすこと。賃金の最低基準額 を保証する「公契約法」を制定すること
  • 雇用保険給付は全失業者を対象とし、給付期間の延長、給付水準の引き上げ、加入期間の短縮をおこなうこと
  • 生活保護の申請権侵害をやめ、ただちに申請受理と保護開始をおこなうこと。老齢加算を復活すること。 生活保護の基準引き下げや扶養義務強化、期間の有期化、医療扶助への自己負担導入をおこなわないこと
  • ひとり親世帯への医療費の援助・窓口無料化、就労支援の充実、正職員での雇用などの雇用保障をおこな うこと。公的住宅の優先入居を保障すること

(3)保育・医療など安心の子育て、高校までの教育費無償の実現を

  • 子ども・子育て新システム関連法案を廃案にすること。公的保育制度を拡充し、希望するすべての人が入れ るよう、認可保育所を国の責任で緊急に整備すること。国と自治体の責任で保育予算を大幅に増額し、保育料の父母負担を軽減すること
  • 子ども(児童)手当を、所得制限なしで中学 3 年生まで月 1 万 3000 円に戻し、対象も扶養している 18 歳(高校卒業)まで拡充すること。年少扶養控除廃止をやめること
  • 男女ともに労働時間を短縮すること。看護休暇や子育て休暇などを導入すること
  • 公立小児病院の統廃合をやめ、産婦人科医や小児科医の増員、小児専門病院や夜間救急医療などの医療体制の充実をはかること
  • 子ども医療費無料を義務教育終了まで国の制度として確立すること。自治体の施策を後退させず対象年齢の引き上げ、所得制限・自己負担なしで窓口無料にすること。実施自治体への国庫負担金の減額をやめる こと。福島の 18 歳以下の子ども医療費無料化を国の責任でおこなうこと。ヒブ・小児用肺炎球菌・水ぼう そうなど、子どもに必要な予防ワクチンを全額国費によって定期接種化をおこなうこと
  • 国の教育予算を先進国水準まで引き上げること。義務教育を実質的に、また保育・幼児教育や高校教育も 無償化すること。高すぎる学費を下げること。高校・大学の返済不要の給付制奨学金制度を創設すること

(4)受けたい人がお金の心配なく受けられる医療・介護を

  • 日本の「国民皆保険」をくずし、医療・保険等の市場化をねらうTPP参加はおこなわないこと
  • 医師や看護師を大幅に増やすこと 1、後期高齢者医療制度はただちに廃止すること。後期高齢者の保険料・国保料(税)の引き上げを見直し、滞納を理由の保険証取り上げと短期保険証・資格証明書の発行はただちにやめること
  • 70〜74 歳高齢者の窓口負担引き上げをやめ、健保本人を 2 割に戻し、国保も 2 割にすること
  • 高齢者への新型インフルエンザと成人用肺炎球菌のワクチン接種を無料にすること
  • 4 月改定による訪問介護の生活援助時間短縮、介護報酬切り下げをやめること。介護保険への国庫負担をふやすこと。介護保険料引き上げをやめること。住民税非課税者の保険料免除、国による保険料減免制度の創設をおこなうこと。介護保険の利用料を無料にすること
  • 要支援者のサービス切り捨てにつながる「介護予防・日常生活支援総合事業」を撤回すること。従来の介護予防サービスの充実、だれもが利用できる地域支援事業、高齢者施策を充実させること
  • 介護保険利用料にはねかえらない仕組みを導入し、介護報酬底上げと介護労働者への実効ある処遇改善をおこなうこと
  • 厚労省は特別養護老人ホーム待機者数を調査し、発表すること。国の責任で緊急建設計画などを策定し、大幅増設をすすめること

(5)女性も男性もだれもが安心して暮らせる年金を

  • 年金改悪につながる「一体改革」法案を廃案にすること。保険料の引き上げや給付削減をただちにやめ、 毎年 0.9%ずつ自動的に削減する「マクロ経済スライド」を廃止すること
  • 受給資格期間を現行の 25 年から 10 年にすること
  • 「消えた年金」問題を解決するためにも、ベテラン・正規職員による体制の抜本的強化をはかること
  • 基礎年金財源の国庫負担 2 分 1 は消費税に拠らないこと。基礎年金満額の 2 分1(3 万 3000 円)を国庫負担で支給する改善で低年金の底上げをはかること
  • パート、派遣、アルバイトなど短時間労働者に対する年金適用については、時給 1000 円以上への引き上げなど労働条件の抜本改善とともに、加入は労働者本人の希望で、保険料負担が過重な零細事業所には国が必要な補助をおこなうこと
  • 支給開始年齢の 68〜70 歳への先延ばしをしないこと
  • 遺族年金は、本人の老齢年金を 100%支給し、男女問わず配偶者の老齢年金を半分受給できるようにすること。3号被保険者問題は、基礎年金部分の税方式化で解決すること
  • 国民すべてに支給される全額国庫負担による最低保障年金制度を創設すること。国民年金や厚生年金などの保険料納付分が上乗せされる 2 階建てとすること

 

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