2009年4月15日 声明・談話・要請など

【見解】公的保育制度の改悪ゆるさず、希望する人が安心して子どもを預けられる保育制度の拡充を

「働きたいけど、子どもを保育所に預けられない」「保育料が高すぎる」など、いま、保育所へのさまざまな要求がうずまいています。こうしたなか、厚生労働相の諮問機関「社会保障審議会少子化対策特別部会」は、2月24日、「新たな保育の仕組み」として「新制度」案を発表しました。政府は今後、議論を重ね、2010年度か11年度の通常国会に児童福祉法「改正」案を提出し、2013年度から新制度への移行をめざしているといわれています。マスメディアは「新制度」案について、いっせいに、「保育園、親が自由選択」(東京新聞)、「子育て支援へ使いやすく」(日経新聞)など、あたかも保育所が利用しやすくなるかのような報道をしていますが、本当にそうでしょうか。 新日本婦人の会は、創立以来「5つの目的」のもとに、女性が働きつづけることと子どもがゆたかに成長する権利を保障するために、「ポストの数ほど保育所を」と、多くの父母や保育団体などとともに保育所増設と公的保育制度の拡充を求めて運動し、今日の制度の到達点を築いてきました。 この到達点にたって、「新制度」案の問題点とねらいを明らかにし、こうした公的保育制度の改悪をゆるさず、緊急を要している待機児童の解消と保育制度の拡充にむけて、新婦人の要求と見解を表明します。

「新制度」案の問題点とねらい

現行の制度は、児童福祉法24条で市町村の保育実施義務を定め、公的責任を明確にしています。運営や施設などの最低基準を定め、それを維持するための国・自治体の公費負担義務が決められています。子どもを保育所に預けたい保護者は、市町村の窓口に申し込み、市町村は必要度が高い順に入所先を決めています。また、保育時間は1日8時間を基本に延長保育もおこなわれ、保育料は保護者の所得に応じて市町村が決め徴収しています。 ところが新制度案は、こうした市町村の保育実施義務をなくし、保護者が直接保育所に申し込む方式に変え、企業参入を促進するなど、これまで築いてきた公的保育制度を根本からくずすものです。その問題点の主な特徴をみると以下のようになります。   ◇保育所入所などすべて「自己責任」 市町村は保育がどの程度必要か、「保育上限量」(保育時間)を判断するだけで、保護者は自分で条件に合う保育所を探し、契約しなければなりません。入所はそれぞれの保育所の事情や都合で決められるので、障害をもった子どもや経済的に困難を抱える家庭が排除されることも考えられます。「自由に選べる」どころか、もっとも保育を必要とする人からその機会がうばわれる可能性が高いのです。   ◇ 集団保育が崩され、保育料は「応益負担」に 保育時間は1日をいくつかに分け、4時間、8時間、11時間などの子どもを一緒に保育することになり、登園、退園時間も大幅に違い、一人ひとりの成長・発達にそった保育や集団保育、行事の運営も困難になります。保育料は保育時間に応じたいわゆる応益負担に変わり、保育の内容も保育料次第となります。   ◇ 民間企業が保育をもうけの対象に、企業の都合で突然の廃園も 市町村の保育実施義務がなくなるということは、保育の実態の掌握やその対応がとれなくなり、民間企業も参入しやすくなるということです。企業が保育所の経営に乗り出し、「採算が合わないから」などの都合で突然、廃園になる実態もすでに起こっています。 特別部会は、「新制度」案のねらいを「スピード感あるサービスの抜本的拡充」「深化・多様化したニーズへの対応」などと述べていますが、この背景には、待機児問題の原因を現行制度におしつけ、保育所増設を怠ってきた政府の責任をあいまいにすること、財界の要求にこたえて保育を福祉の分野から切り離し、もうけの対象にすることなどがあげられます。財源確保のために消費税増税を前提にしていることも重大です。 「新制度」案は、介護保険制度や障害者自立支援制度をモデルにしているといわれていますが、この2つの制度はともに国・自治体の責任をなくし「応益負担」としたため、利用料を払えずに必要な介護・支援が受けられないなど、すでに破綻が明白になっているものです。「新制度」案が「少子化対策」どころか、少子化に拍車をかけることは火を見るより明らかではないでしょうか。

保育予算を増額し、保育所の拡充・増設こそ求められている

いま必要なことは現行の保育制度を変えることではなく、拡充することです。国と自治体が保育の実施責任を果たせるようにするために、保育予算を抜本的にふやして、希望する人が誰でも安心して預けられるよう保育所を増設することです。 いま保育園に通う子どもは220万人、待機児は4万人を超え(08年10月現在)、さらに雇用悪化のなかで保育所入所希望が急増し、「子どもを保育所に預けたい」と考えている人は推計で約85万人(厚生労働省調査)もいます。 働くことを希望している女性すべてが子どもを預けるためには、政府の試算で100万人分の保育を新たに確保することが必要ですが、国の予算の使い方を見直せばできることです。たとえば、グアムへの米軍基地移転のために日本政府が負担する費用(約7000億円)があれば、90人定員の保育所を5000カ所、45万人分新設できます。 対GDP(国内総生産)比で家族関連の支出が先進国のなかでも上位を占める北欧では、「保育に欠ける」子どもすべてに保育所の入所が保障されています。日本のように多くの待機児が放置され、根本的な対策をとらない国は世界でも稀です。 今年は女性差別撤廃条約採択30年、子どもの権利条約採択20年という節目の年です。女性が子どもを育てながら働き続けるという当たり前の願いを実現し、子どもの保育を受ける権利を保障するために、保育所問題は重要な課題です。保育制度の改悪ではなく、国と自治体の責任による待機児童解消こそ急ぐべきです。多くの国民・女性が望む、希望する人が安心して子どもを預けられる保育制度の拡充のために、以下の点を要求し、共同のとりくみをひろく呼びかけます。

私たちの要求

1、 待機児童をなくすために、公的責任で緊急対策をとること
2、 希望するすべての人が保育所に入所できるよう、認可保育所を拡充するための保育所整備計画をつくること。そのために国と自治体が責任をもって保育予算を大幅に増額すること
3、 女性の就労支援のために、求職中であっても保育所に入所できる体制を国や自治体の責任でつくり、実効あるものにすること
4、 保育料をひきさげること
5、  産休・育休明けや延長・夜間・病児・障害児保育など、働く保護者の実態や要求にかみあった公的保育の拡充をおこなうこと。育休中も上の子どもの保育を保障すること
6、 公立保育所の民営化・民間委託による保育水準の引き下げをしないこと
7、 保育士の労働条件改善と働く権利を守るために、また、子どもの安全と発達、保護者の子育て支援を保障するために、正規雇用の保育士を増やすこと
8、 「社会保障審議会少子化対策特別部会」がまとめた「新制度」案の審議を中止すること

新日本婦人の会

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