2020年10月6日 子育て&教育

コロナ禍でのオンライン教育の現状と問題点

 新婦人しんぶん 2020年10月8日号、4面-5面の記事を紹介します。

 

 

 

 新型コロナ感染拡大による臨時休校で、授業をはじめオンラインの活用が広がりました。オンライン教育の現状と問題点について、青森大学客員教授・子どものネットリスク教育研究会代表の大谷良光さんに寄稿していただきました。

 

3点の問題

 3月、突然の臨時休校。この困難の中で、子どもたちと教師、友だちとのつながりとして、お互いの表情が見える双方向のオンラインは評価されました。私はこのつながりをオンライン「心のケア」と呼び、遠隔授業とは区別し、その必要性を訴えています。
 現在小中学校におけるオンライン教育の問題は三点あります。
 一点目は臨時休校中、学校と家庭を結ぶオンライン環境を整備し、活用できた学校は5%と少なく、現在でも双方向のオンライン環境が整った学校は1割弱です。
 コロナ対策の文部科学省関係補正予算は、コロナ第二波による臨時休校も想定し、家庭で使用している端末(パソコンやタブレット等)でネット接続環境を整えることを決めています。ネット環境が整っていない家庭を支援するため、学校で所有する端末の貸し出しと「モバイルWi―Fiルータ(小型の受信機)」を予算化(全額国庫補助)し、低所得世帯への通信料補助等を施策しました。
 そして、貸し出しをする端末は、小中学生全員に1人1台配備されたものを活用することを想定しています。すでに各校に届きつつありますが配備完了は2%と極めて遅れています(文科省調査8月末時点)。そして、自治体によりかなり差があります。
 二点目は、春の臨時休校中の生活リズムの崩れとネット漬けにより健康被害が進行していることです。
 われわれの小学生保護者への調査では、臨時休校中に4割の保護者がスマホやタブレット等の端末を新たに買い与え、8割の小学生がメディア・ネットの接触時間が増えました。その結果、ネット依存傾向者を新たに生み、視力の低下等の眼の異常を引き起こしている兆候が見えました。(下グラフ)
 三点目は、活動空間が過密な教室、新自由主義的学力競争、子どもも教師も精神的ゆとりのない学校の実態とかけ離れた、1人1台の端末配備によるICT(情報通信技術)学習で学びが変わる(令和の学び)などと幻想をばらまいていることです。この動向は、現在の学校状況を鑑みずマスコミの一部も荷担し流布されています。 

 

 

学校の現状は

 端末が配備され始めた「先行地区」の現状を報告します。
 中学3年生、38人学級。現在でも超三密の教室に40台の端末を保管し充電するためのキャビネット(大型冷蔵庫半分くらいの大きさ)が鎮座。教室は息苦しさを増しています。
 教師は、2学期からストレスをためた子どもたちや新たな不登校生徒への支援、コロナ対策、遅れている授業対策等と通常より勤務が倍増し疲弊しています。ICT教育担当の教師は「この教室、この人数で、支援するサポーターも配備されない中、どのようにICT教育を行うのか」と嘆いています。
 ICT教育が行える環境は、子どもたちが活動しやすい教室の空間と、教師が支援可能な少人数学級です。少人数学級が実現すれば、教師の定数も増え多様な活用が可能になります。

 

 

今急がれるのは

 秋から冬にかけて想定される地域ごと、学校ごとの長期臨時休校に対応した、全家庭と学校をつなぐオンライン環境の整備が必要です。
 この整備を、教師や学校に求めるのは筋違いで、実施主体は地方自治体であるべきです。ところが、少なくない自治体は端末だけ学校に届け「後は学校で」のようです。
 コロナ補正予算施策の問題は、学校への人的支援が不足しているため地域格差が顕在化していることです。ICT指導員(4校に1名、1/3国庫補助)、スクールサポーター(1/3国庫補助)等は、すべて国庫補助であり、地方自治体が予算化しなければ実現しません。
 非常事態に備え、子どもと教師を結ぶ、オンライン環境を整え、まず「心のケア」を優先し子どもたちが家庭で学習や生活を送れる基盤を整えておくことです。
 そして、学校・教師は3カ月の休校から得られた教訓を生かし、年間指導計画に縛られない、休校中だからできる指導計画と学習課題を用意することが求められます。

 

 

GIGAスクール構想はICT教育と別物

 ICT教育は、ICTを教育機器・道具として利用するものであり、効果的に活用できるものが開発されています。特に、特別支援教育や不登校の子ども等の個別支援で成果を上げています。
 活用できる環境と条件が整えば、活用すべきと考えます。ただし、何年生から利用するかは慎重な検討が必要です。「便利」の対には子どもの発達阻害が必ず潜んでいます。
 経済産業省主導日本版「ICT教育」戦略であるGIGAスクール構想は、経済界からの要求に基づき教育を市場化する目的で進められています。子どもの発達を願う教育論は、「学び」は「学びあい」であり、自分との対話、世界との対話、他者との対話により深めます。ところが、GIGAスクール構想は「個別最適化された学び」、すなわちコンピューターに個別に管理された学習履歴(学習ログ)のビッグデータにより、一人ひとりの課題に応じた最適な学びを与えられるとしています。これは、「最適化」の名で学びあいを分断する作用が働き、集団の中で学び、人格の完成を目指す学校教育のあり方を根底から破壊するものです。
 1人1台のパソコンの配置後は、デジタル教科書・資料集のオンラインでの利用、全国学力テストのオンライン化等とすでに、検討会を立ち上げています。
 強引な動きの背景には、公教育への参入を目指す民間企業の動きがあります。教師が研修をして得る多様な学びを保障するICT教育でなく、子どもの学習情報を教育産業が握るための施策が仕込まれているのです。

 

 

「正しく恐れる」教育と啓発が急がれる

 スマホやタブレットの長時間使用による疲労、健康被害の現れ方はさまざまです。しかし、ここ数年の研究で長時間使用と健康被害の相関関係や科学的根拠が明確になった事実は多々あります。これらの事実を子どもたち、保護者、教師、教育関係者に伝えることが急務です。
 ゲーム障害は世界保健機関で疾病と認められたにも関わらず、文科省の動きやマスコミの報道は鈍く、情報産業界への迎合としかいえません。子どもたちが学校で端末を使用すれば、端末の使用時間はさらに延びます。
 コロナ禍でも、子どもの健康や発達段階への配慮など、教育格差をつくらないための条件整備は課題です。一人ひとりの子どもたちにゆき届いた教育、心身のケアができる少人数学級を実現しましょう。

 

 

 

少人数学級を求める署名はことらから

 

ネットで署名(change.org)はこちらから↓

『コロナの危険の中で学ぶ子どもたちに、少人数学級と豊かな学校生活を保障してください』

 

署名用紙データはここからダウンロード↓

「子ども一人一人を大切にする 感染症にも強い 少人数学級を」 カラー版(A4・両面)

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